【1 組織とは何か】
「組織」と呼ばれる集団にはいくつかの特徴がある。
組織には達成すべき目標が明確に存在し、それを組織の成員が共有している。
そしてその目標を達成するために、成員がそれぞれ役割を分担している(分業体制)
分業
水平方向の分業…営業、製造、マーケティング、財務といった職務に基づく分業
垂直方向の分業…社長、副社長、部長、課長といった序列や地位に基づく分業
分業は、組織が円滑に機能する上で不可欠なものだが、組織の成員の間に葛藤をもたらしたり、組織としてのまとまりを妨げ、かえって作業効率を下げてしまったりする場合もある。
したがって、組織においては、仕事を分業するだけでなく、その分業を再統合する力が必要である。
このような組織の中で働く人の心の働きや行動の特徴について研究するのが組織心理学である。
【2 組織内の葛藤】
課題葛藤
上位の目標は共通でも、分業によって役割や地位が異なれば、個別の問題においては利害関係が生じることがある。(新商品の開発と経費削減など)
関係葛藤
立場や役割によって意見や考え方に食い違いが生じたり、些細なことから感情的な対立に発展することがある。
組織内の葛藤は、組織全体の目標達成の妨げとなるため避けられるべきであるとの考えもあるが、時として葛藤は組織改革の契機となる。
葛藤をただ避けるのではなく、葛藤を直視し、それを適切に処理していくことが、組織全体の発展には不可欠である。
【3 組織コミュニケーション】
コミュニケーションの成立過程
葛藤を解決し、効率的な分業の促進のためには、円滑な組織コミュニケーションを成立させることが必要。
我々は他社の考えや意図を直接目で見ることはできないため、人に何かを伝える際には、それを相手にもわかるような記号(ことばやジェスチャーなど)に置き換えなくてはならない。
受け手はそれを観察し、記号を解読することで、相手の考えや意図を知ることになる。
組織コミュニケーションが誤解なく成立するには、双方が記号のもつ意味を共有していなくてはならない。
意味の共有化は相互作用の積み重ねによって促進するため、作用が少ない間は誤解も生じやすいが、機会が増えれば記号の意味が洗練されるため、わずかな記号だけで豊かなコミュニケーションが可能になるし、限られたものにしか通じないコミュニケーションも可能になる(業界用語、スラングなど)。
集団分極化
組織の意思決定は、通常、会議での話し合いによって行われる。
多くの人が意見を出し合えば、よりよいアイディアが生まれ、個人が行う判断よりも優れた判断ができると信じているが、個人の意見は多数派の意見や社会的勢力をもつ人の意見にかき消されてしまうこともある。
集団浅慮(集団思考)
集団討議において合理的な決定を妨げる共通した思考形態が生じる。
凝集性が高く外部の意見に対して閉鎖的な集団においては、強力なリーダーが意見を示すと他の集団成員がほかの選択肢を考えなくなる。また異なる意見をもった者がいたとしても、集団全体の結束が乱れることを恐れて意見表明が控えられるため、あたかも集団全体の意見が一致しているような錯覚に陥ることになる。
結果として討議に必要な情報が十分に収集されず、議論も尽くされないままに質の悪い決定がなされてしまう。
集団分極化(リスキーシフトとコーシャスシフト)
集団による意思決定は、個人が行うものよりも危険で冒険的なものになりやすい(リスキーシフト)。
集団討議による意思決定が個人の決定にも影響を及ぼし、またその影響は数週間にわたって持続する。
また、意思決定が慎重で保守的な結論を生み出すという場合もある(コーシャスシフト)。
討議の結論がどちらの方向に向かうかは、集団構成員の討議前の意見分布に依存していて、集団討議を行うと、もともと優勢だった意見がより極端なものになるという傾向。
【4 リーダーシップ】
リーダーシップとは
集団目標の達成に向けてなされる集団の諸活動に影響を与える過程
リーダーシップをとる者は1人の人間であるとは限らず、また常に管理的な立場にある者がリーダーシップをとるとも限らないが、企業の社長や店長、チームの監督が替わるだけで気風や業績などが著しく変化することもある。
特性アプローチ
優れたリーダーに備わる個人特性を追究する研究
歴史に名を連ねる偉大なリーダーの性格、知能、態度などを調べればリーダーとしての適性が分かるはずだと考えられた。
しかし、特定の特性をもつ者が必ずしもよいリーダーにはなり得ないことが明らかになる。
行動アプローチ
優れたリーダーはどのような行動をとっているかを調べようとするもの
リーダーとしてふさわしい行動様式というものがあるのならば、特別な素質を持ち合わせていなくとも、その行動様式に則った行動をとれば成員に対して効果的な影響力を持つことができると考えた。
リーダーシップ・スタイルの研究(k.レヴィンら)
子どもたちをランダムにグループ分けし3種のタイプのリーダーを配置
①専制君主型
グループの活動内容に関する決定には子どもを一切関与させず全てをリーダーが決定
②民主型
活動内容に関する決定に子どもたちを積極的に関与させる
③放任型
リーダーは何も決断せず子どもたちの自由に任せる
結果
①リーダーのもとでは作業効率は良いものの、子どもたちの意欲が乏しく仲間内で攻撃的な行動やいじめがみられる
②集団の雰囲気が良く作業効率も良い
③作業がはかどらず、意欲も低い
リーダーシップにおいて重要な機能
①集団の目標達成とハイレベルの課題遂行を志向する機能
②メンバー間の良好な人間関係を志向する機能
リーダーの行動はこの2つの機能をいずれも発揮できるようなものでなくてはならない。
マネジアルグリッド論(R.R.ブレイクとJ.S.ムートン)
横軸を業績に対する関心、縦軸を人間に対する関心とする座標軸常に、リーダーの行動を位置づける。理想的なリーダーの行動は「9・9型」
PM理論
目標達成行動を目指すP(performance)機能と、集団維持活動を目指すM(Maintenance)機能をそれぞれどの程度備えているかによってリーダーの行動を4タイプに分けた。
pm型(どちらも低い) P型(Pのみ高い) M型(Mのみ高い) PM型(いずれも高い)
理想のリーダー行動はPM型
コンティンジェンシー・アプローチ
効果的なリーダーシップは組織の置かれた状況によってことなると考えられるようになった
変化する状況に素早く的確に対応するためのリーダーシップを模索するコンティンジェンシーアプローチ(状況即応アプローチ)が登場。
F.E.フィードラーのモデル
①リーダーと部下との人間関係の良好さ、②目標とその遂行手順が構造化、明確化されている程度、③リーダーの権限の強さ、の3つから集団状況を捉えた。そして組織を統制しやすい状況にあるかどうかによって、どのようなリーダーシップが効果的かは異なる。
LPCモデル
リーダーの役割をとっている人に「一緒に仕事をする上で最も苦手だった同僚」を評価させ、その評価をリーダーシップ・スタイルの指標とするのが特徴。
「高LPC」苦手な同僚を好意的に評価→人間関係を重視するタイプ
「低LPC」苦手な同僚を否定的に評価→課題の遂行を重視するタイプ
リーダーシップにおいて人間関係への志向性と課題遂行への志向性の2つが重要であると考える点は、それ以前の理論と類似しているが、従来のモデルと違うのは、いずれのタイプが効果的かは集団の状況によって異なると考えている点。
状況の望ましさ(①>②>③の条件が満たされているか)によってふさわしいリーダーが異なる。
状況がかなり望ましい場合とかなり望ましくない場合は低LPCが、望ましさが中程度の場合には高LPCタイプが効果的といわれる。
目標ー通路理論(ハウス)
リーダーは、成員が目標を達成するために通るべき道筋を適切に示すことが重要とする理論
単純な反復作業のような定型的な業務をする職場では、人間関係に配慮した支援型のリーダーシップが求められ、非定型的な業務をする職場では、仕事の進め方を明確に指示する指示型のリーダーシップが効果的であるとしている。
SL理論(P.ハーシーとK.H.ブランチャード)
組織成員が成熟していく段階によって求められるリーダーシップは異なるとする理論
成員の能力と意欲に基づいて、その成熟度を4段階に区分した上で、それぞれの段階で求められるリーダーシップが「教示型」→「説得型」→「参加型」→「委譲型」と変化していく。
このタイプも人間関係志向と課題志向の二つの機能に基づいて考えられたものである。
認知論的アプローチ
リーダーを組織成員がどのようにとらえるかによってリーダーシップの効果が異なる可能性を示すもの
組織成員が、業績の向上や低下の原因を、過度に組織のリーダーに帰属する傾向があることを指摘し、これを「リーダーシップの幻想」と呼んだ(帰属のエラーの一種)。
リーダー・プロトタイプ
「リーダーとはこのような特性や行動傾向をもつものだ」というリーダー像を有しており、リーダーを評価する際の基準として用いられ、プロトタイプに一致するほど、能力が高いと評価されやすい。
しかしプロトタイプは個人の経験を通じて形成されるため、個人によって内容が異なる。
変革型リーダーシップと交流型リーダーシップ
交流型リーダーシップ
特性アプローチ〜コンティンジェンシーアプローチまでのリーダーシップ
組織内のものとして捉え、組織内での相互作用を通して、組織をまとめあげ、目標達成へと導くもの
変革型リーダーシップ
組織を取り巻く周辺環境の変化を的確に把握し、組織全体としてその変化に対応できるような創造的変革を生み出していくもの
集団成員に外的環境への注意を促し、思考に新しい視点を与え、変化の必要性を実感させ、明確な将来の目標とビジョンを提示し、みずから進んでリスク・テイクし、変革行動を実践するリーダーシップ。
変革型リーダーシップの構成要素
①カリスマ性
集団成員が自分をリーダーと同一視し、リーダーのようになりたいという気持ちを起こさせる特性
②士気を鼓舞する動機付け
成員に仕事の意味を理解させ、やる気や元気を引き出す特性
③知的刺激
成員の能力を引き出したり、視点を拡げさせたりして、知的な刺激を与える特性
④個別配慮性
1人1人の成員に注意を向け、仕事をサポートしたり、助言をしたりする特性
しかし、組織が創造的な変革を成し遂げていくには、その祖sきkが組織としてまとまりをもつことが前提となるため、交流型のリーダーシップは必要条件であり、これが十分に発揮されたうえで変革型のリーダーシップが発揮されることが求められる。
組織が目標を達成するには円滑な組織コミュニケーションと効果的なリーダーシップに加え、メンバーが連携し支え合うチームワークが必要である。