【1 こころの個人差】
こころの個人差=性格
我々は大なり小なり自分と他者には”違い”があると思っており、その”違い”を描写することで自分を他者に説明したり、他者の特徴を理解したりする。
”違い”には、外見的な側面も含まれるが、他者を理解しようとする際により重視されるのは内面的な違いである。
【2 性格とは何か】
①性格、人格、パーソナリティ、気質
「こころの個人差」をあらわすことば
性格、人格、パーソナリティ、気質など
「personality」と「character」の違い
心理学で扱う「性格」は「personality」
英語の「personality」は「人格」と訳され、「性格」は「character」の訳語とされていた
「character」は評価された「personality」であり、「personality」は評価を抜きにした「character」である
「character」ということばには「望ましさ」という意味が含まれている
「man of character」=「人格者」
「character」=「人格」
「personality」=「性格」
と考える方が原語のニュアンスに近い。
「temperament」=「気質」
遺伝的、神経的、生物学的に規定される個人差であることを強調
②性格の定義
「性格(パーソナリティ)」の定義(オルポート)
個人の内部で、環境への彼特有な適応を決定するような、精神物理学的体系の力動的機構である
◎個人の内部
オルポートが、性格は個人の内部に”実在する”と信じていた
◎環境への彼特有な適応を決定する
性格には生存のための機能的意味があること、またそれにもかかわらず、環境への適応の仕方は各人によって異なり、自発的・創造的な行動を含んでいる
◎精神物理学的体系
性格が完全に精神的なものでもなければ、完全に神経的なものでもない
◎力動的機構
性格が常に進化し変化していることを示す
【3 類型論と特性論】
①類型論
類型論:人の性格にいくつかの典型的な型やタイプを設定し、個人をそのいずれかにあてはめるもの
代表的な類型論(ドイツの精神医学者 E.クレッチマー)
人の体格は、肥満型・細長型・闘士型に分けられるとした上で、これらの体格と精神疾患との間には関連があると考え、患者を分類し調べた。
その結果、躁うつ病の患者は肥満型に多く、統合失調症は細長型に多いことを見出した。
てんかんは闘士型に多いことも後に発見した。
体格と病気の関連性から、体格と性格との関係を考えた。
しかし、現在は受け入れられていない。
◎肥満型
精神疾患:躁うつ病
気質名:循環気質(躁うつ気質)
性格特徴:①社交的、親切、友情に厚い、人好きがする
②明朗、ユーモアがある、活発、激しやすい
③静か、落ち着いている、柔和、丁重、気が弱い
犯罪:詐欺
◎細長型
精神疾患:統合失調症
気質名:分裂気質
性格特徴:①非社交的、おとなしい、用心深い、まじめ、変わっている
②臆病、恥ずかしい、敏感、神経質、興奮しやすい
③従順、お人好し、正直、無関心、鈍感
犯罪:窃盗、万引き、詐欺
◎闘士型
精神疾患:てんかん
気質名:粘着気質
性格特徴:①几帳面で丁寧、融通がきかない、回りくどい
②気分は安定し、粘り強いが、時々爆発する
犯罪:暴力犯罪
他の類型論
◎C.G.ユング:精神力動学的立場から、人間の精神的エネルギー(リビドー)が外の世界に向かう人(外向型)、自分の内面に向かう人(内向型)に類型化
◎血液型性格診断も類型論のひとつということができる(ただし心理学において血液型と性格との関連性は否定されている)
②特性論
特性論:性格は特性と呼ばれる要素の組み合わせからなるとされ、個々の特性をもつ度合いの相違によって性格の違いを表現できると考えられる
特性論の考え(オルポート)
パーソナリティを描写する語を約18,000語拾い出し、それを4,500語程度に分類整理したことが始まり。
ビッグファイブ
現在は分類整理がさらに勧められ、人間のパーソナリティは5つの特性因子に要約できるという考え
①外向性(Extraversion)
積極的に外界に向けて行動をする傾向、人に興味があり、集まりが好き、ポジティブな思考をする、上昇志向が強い、興奮や刺激を求めるといったエネルギッシュさを示す特性
②神経症傾向(Neuroticism)または情緒安定性(Emotional Stability)
感情の不安定さや落ち着きのなさ、非現実な思考を行いがち、自分の欲求や感情をコントロールできない、ストレスへの対処が苦手な特性
③開放性(Openness / Openness to Experience)
さまざまなことに知的好奇心をもつ傾向、新しい理論や社会・政治に好意的だったり、既存の権威に疑問を持つ、物事が複雑であることを許容する(知能や創造性との関連性も指摘)
④調和性もしくは協調性(Agreeableness)
一般的には「やさしさ」と呼ばれるような特性、他者と対立するよりは協調することを好む、実直で慎み深いなどの傾向性
⑤勤勉性もしくは誠実性(Conscientiousness)
欲求や衝動性をコントロールする傾向性、目標や計画を立ててそれをきちんと成し遂げる特性
これらの英語の頭文字を取って「OCEAN」と呼ばれることもある。
類型論と特性論の違い
特性論では、個人の性格がそれぞれの特性をどの程度持っているかという形で表される。
類型論に比べると一人の人間の全体像を統合的に理解するのが難しい。
類型論は他者の性格を直感的に理解しやすい反面、必ずしも全ての人がうまくどれかの類型にあてはまるとも限らない。
類型論で無理にどれかの類型に当てはめることで、本来複雑で豊かな性格を必要以上に単純化してしまうという問題もある。
現在は性格検査においては類型論より特性論に基づいて性格を理解することの方が多い
【4 環境(状況)の力】
①ミルグラムの実験
人の性格を判断するとき、何をもとにするか→行動もしくは行動の結果
例えば凶悪な事件を起こした人は残酷な性格の持ち主に違いないと推測する
人の行動には性格が反映されていると考えがちだが、実際に行動を規定するのは性格だけではない。
ミルグラムの「服従実験」
罰が学習に及ぼす影響を調べる実験であるという名目のもと、実験参加者が教師として、もう一人の実験参加者(サクラ)に記憶の問題を出し、間違えるたびに徐々に強い電気ショックを与えていくというもの(実際には電気ショックは与えられていない)。
教師役の傍らには実験者がいて、電気ショックを与えるのを拒むと4回まで決められた台詞で電気ショックを与えるよう促す。
〈結果〉
40名の実験参加者のうち実験を中断したのは15名に過ぎず、残りの25名(62.5%)は最後の段階まで電気ショックを与え続けた。
しかし、電気ショックを与え続けた人も、自ら進んで実験を続けていた訳ではなく、止めたいと思いつつも続けざるを得なかったというのが実情。
我々の行動に影響を及ぼす環境(状況)の強さを物語っていると考えるのが自然
ごく少数の行動(ときには単一の行動)から、当事者の性格を推測する傾向があるが、我々の行動には環境の力が強力に働いている場合があることに留意する必要がある。
②人ー状況論争
本来、性格といった実態が我々の内面に存在し、それが我々の行動を規定していると考えるなら、異なる状況を越えた行動の一貫性が見られるはず。
しかしその証拠はきわめて乏しいことを指摘し、性格は「行動から仮説的に抽象された概念」であるにも関わらず「実体」として扱われていることを批判(W.ミシェル)
以後、約20年にわたり、行動の一貫性は「人」の要因で決まるのか「状況」の影響を大きく受けるのかが争われた。この論争は「人ー状況論争(もしくは一貫性論争)」と呼ばれ、心理学における性格研究を停滞させるもとになったとも言われる。
現在、この論争は決着を見たとは言い難いが、人間の行動を性格だけが規定しているとは言えないのと同じように、環境だけが行動を規定しているとも結論づけられない。
【5 性格の測定】
①性格検査の種類
性格の測定には行動の観察や面接なども用いられるが、最も一般的なのは性格検査(パーソナリティ検査)による測定。
質問紙検査
ある性格的特徴をもつ人がとるであろう行動などを質問文によって示し、対象者にそれが当てはまるかどうか(もしくは当てはまる程度)を回答してもらい、回答の特徴から心的特徴を推測する。ビッグファイブに基づいた質問紙などが利用される。
投影法
対象者にあいまいな絵を示したり、漠然とした教示を与えたりして、それに自由に反応してもらうことで、反応の中に投影される心的特徴をとらえようとするもの。
「ロールシャッハ・テスト」ではインクのしみを見せて何に見えるかを答えてもらいその反応の特徴を分析する。
作業検査法
対象者に一定の作業をさせ、その作業量や作業パターンなどから心的特徴をとらえようとするもの。内田ークレペリン精神作業検査では、対象者に単純な加算作業を一定時間行ってもらい、その作業パターンをもとに、性格や職業適性を推測する。
②信頼性と妥当性
信頼性:性格検査は繰り返し測定しても安定して正確な結果が得られるものである必要がある
妥当性:測定しようと意図したものが的確に測定できているかどうか
性格というのはそれ自体が目に見えない抽象的な概念のため、特定の検査が正しくその概念を測定しているかどうかを確認するのは困難な作業であるが、それを確認して初めて性格を測定することが可能になる。